『苦悩のオレンジ、狂気のブルー』デイヴィッド・マレル — 苦悩の作家、狂喜の読者

私は出版関係者ではないが、まずこの短篇集の商品としての破格っぷりに驚く。1900円で14+2篇、しかも作者自身によるまえがき/あとがき/各篇へのイントロダクションがついた原書ヴォリュームそのままを、札幌市の出版社が全国発売しているというこの快挙!



そんなことぁ抜きにしても、マレルの短篇作家としての力量にまた驚く。キングをフィーチャーするためのなさけない邦題を持つ名アンソロジー『ナイト・フライヤー』収録の「オレンジは苦悩、ブルーは狂気」での発見がこの短篇集へと導いてくれたわけだが、そうでなければ私にとってのマレルとは “ランボー”こと『一人だけの軍隊』もしくは『トーテム』の作者に過ぎなかったろう。



で、注目&警告!彼のアクション/サスペンス巨編のファンの人もそうでない人もこの短篇集だけは読んだほうがいい。SF/ホラー/ミステリのファンなら、とりわけそれらの短篇のファンなら、この濃密な短篇集が、玉石混淆が常態のキングのそれなど軽く超えるモダンでヴァラエティに富んだ逸品であることがみてとれるだろう。

「パートナー」 
オフ・ビートなイカしたイマドキ殺し屋像が新鮮でリアル。こういうハナシをわざわざ長編使ってやらないとこがアメリカ・ミステリの裾野の広さなんだよな、とか思ってると... いや、ネタバレになるが... エリン、ダール、ブロック...

「ひそやかな笑い声」 
大学教授でアクション/スリラー作家というとどうしてもトレヴェニアンを連想してしまうが、そんなことは全く関係なしに、むしろ正反対の部分でさすがと思わせる技巧的逸品。(私はきらいだが)ヘンリー・ジェイムズに私淑するというマレルの文学肌が全くマイナスになることなくそのジャンル作品に活きていることが納得できる。

「背後に絶えず聞こえるのは」 
“自分が本当に恐れているものを書け” ー 並みいるホラー作家がこぞって挙げる金科玉条だが、マレルほどの切迫感をもってそれを実践できる作家は少なかろう。“作家/教授とその妻子”パターンを何度使ってもマレルは退屈させることがない。

「苦悩のオレンジ、狂気のブルー」 
主流文学風に始まってやがてミステリにホラーにSFに... 読者としての熱心さをもうかがわせる入魂の一作は、ブラム・ストーカー賞に輝く文句なしの傑作。ラヴクラフティアンにもぜひ!

「墓から伸びる美しい髪」 
実験的技法が冴えるのは、その声をその物語が必要としてこそだ。現行でジャンル最強のマレルの文には文学臭のおそれはない。

「慰霊所」 
歴戦のホラー読みはスレっからされ 「ハイハイハイハイ、そのネタね」と凡百のネタ短篇を読み飛ばすようになる。マレルの地の文は痛く切なく、ネタ追いにとどまらない読む快感でもってジャンル読者に改めてジャンルの可能性を思い知らせてくれる。



中学生時代に『トーテム』を走り読みに読み捨てた私は、いまさら『トーテム(完全版)』を読むのもさすがに怖い気がするのだが、デイヴィッド・マレルという作家の私的最終受容の問題にケリをつけるためにも、その内読まずには済まされまい。願わくはその完全版が、マレルの謂うようにキングの『呪われた町』への相応のアンサーとなっていればいいのだが(もちろん「若書き」を許容することもできようし)。



 





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