“バベルの図書館” 第4巻『禿鷹』フランツ・カフカ、ホルヘ・ルイス・ボルヘス — どうせ読むならバベルにせいっ!その4

もし全てのSF読者が読むべき世界文学の巨匠を一人選ばなければならないとしたら(確かにそのような途方もない選択を義務づけられる読者はいなかろうが)、それは紛れもなくホルヘ・ルイス・ボルヘスであろう。ボルヘスにはわれわれの求める奇想があり、文体があり、そしてもちろん、笑いがある。



その文字通りの入門 “篇” として挙げるなら、当然、短篇集『伝奇集』の巻頭を飾る「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」ということになろうが、叢書 “バベルの図書館” の序文から入っていくのも悪くない。そこでのボルヘスは、エッセイと批評と作家紹介と作品解題を巧みにかつ自由自在に織りまぜ、序文というものが十分に一個の作品となり得、またエンタテインメントとなり得ることを証明してみせてくれている。



この巻でボルヘスが紹介するのは、もっぱらイメージによって知られているだけのあの辛気臭い現代文学の巨匠カフカではない。ものによっては1ページで終わってしまうような短篇、というよりは断片に近い作品を集め、そのこと自体でボルヘスは自身のカフカ観及び文学観を語ってもいる。われわれはそこに、投げやりで斬新な語り口とグロテスクな想像力がひとえに不条理ギャグのみに貢献するモダンでカジュアルなエンタテインメントを発見しさえすればよい。



圧倒的にとっつきやすいパワー・ポップにして、無責任なナンセンス&グロテスク悲喜劇にして、いつまでもモヤモヤと「現代文学」的なチクチク煽りをそこはかとなくもたらし、それでいて昔ながらの童話モチーフのあれやこれやを彷彿とさせてニマニマさせられる「動物モノ」の2篇:「禿鷹」「雑種」を最初の5行でも読んでみれば、どんな理由からのカフカ嫌いであろうとも必ず好きにならずにはいられまい。その飄々としたすっとぼけ文体は、たとえばブッツァーティや内田百閒や萩原朔太郎のおとぼけ怪談趣味の軽みにも近く、したがってますますしかつめらしい文学臭とは遠いのだ。



イタリアのフランコ・マリーア・リッチ社と日本の国書刊行会によるその美しい判型と装丁は、この叢書を世界で最も持って嬉しいシリーズとしており、ある作家に挑み始める際には、“どうせ読むならこの叢書で” と思わせるほどである。
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叢書 "バベルの図書館" は、その後フォーマットを変えオリジナルの全30巻を大冊全6巻にまとめたため、ブログ記事タイトルや本文と現在の巻のあり方に齟齬が出ている。好事家は美しいオリジナル判型版を中古などでコツコツと買い揃えられるがよろしかろう(付録の「月報」も付いていようし)。


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