『洋梨形の男』ジョージ・R・R・マーティン ― 用無し型のSF作家

コレは恐るべき短篇集ですよ!“マーティンどうでもいい派” だからといってコレまでスルーしちゃうのは大損もいいとこ!件の人気長尺ファンタジーもエンタメSF連作集も長篇ホラーもグロSF短篇集も読んでなくても/読む気なくても!コレだけは読むべし!てゆうかコレ以外はむしろ読まなくていいかも。いや、マジにね、ホラー短篇作家としてのこの人は、空前絶後・唯一無比・不世出の個性なんですわ。はっきり言ってふさわしい褒め言葉がみつけにくいんですが、不安のソムリエ、悪意の鑑定士、狂気の顕微鏡写真家、とでも言うところでしょうかね。いささか安易に味わいの似た作家名をひきあいに出すなら、スタンリイ・エリン、エド(ワード)・ブライアント、ジョナサン・キャロル、となりますが、でも早合点なきよう! 残念ながら名手と言われる鮮やかな手際ではなく、彼らが一部の作品で描いてみせる、恨み・つらみ・妄念・執念・後ろ暗い過去の記憶、等々の人間のダーク・サイド描写、あれだけが似てるんですねー。“えー?それで一体何が面白いわけ?” って言われるかもしれませんが、これがめっぽう面白いんだから困っちゃう!というか、コワいんですね。もう、どんなモンスターや幽霊や悪魔より怖い。怖いし、ウゲーって後味悪いし、短篇としてはそーんなにまではデキ良くないし、でも読んでる最中は他では味わえないくらいのそのエグ味がものすごいリーダビリティとつかみを発揮する。あ~、そう書いてて想い起こしたのはヴィンチェンゾ・ナタリの映画『CUBE』だね、うん。エンディングをどう評価するにせよ(あるいは評価しないにせよ)、その最中のパフォーマンスの高さは空前絶後、そういう傑作のカタチもあるワケですよ(因みに『CUBE』は全面的に支持する私です)。



さあ、思わせぶりなアオリはこれくらいにしといて、とりあえず各篇について触れときましょうかね。どうでもいい2篇は意図的にスルーですが。

「思い出のメロディー」は、う~ん、パワー・ポップ!この巻では一番まっとうにデキのいいオーソドックスなホラーなんですが、もちろんそんなとこを読むもんじゃないんですな。主人公のテッドとメロディーを、そのしがらみ関係のやり切れなさ、後味の悪さこそを読んでほしい。はっきり言って、ホラーだからむしろ救われてる、そんなイヤ~なコワさを、この30ページのとっつき易い好篇がすばやく教えてくれまする。

「子供たちの肖像」は、力作にして、う~ん... まあ、傑作。二重仕立てのメタな叙述トリックが効いてるわけですが、そしてまたそれこそを評価すべきなんでしょうが... どーでもいい!やっぱりイヤさ加減を楽しみましょう。女性読者諸氏には胸の悪くなるようなネタでもあるんで要注意、ながら、フェミニズム的なシヴィアな問題意識からのものでもあるんで、うん、難しいな。

「洋梨形の男」は、もしかしたらこの巻で一番、というか唯一、深イイ話なのかもなあ。いや、もちろん気持ち悪いんですよ。ジャブも華やかでいいテンポなんですよ。ただ、一見一件落着にも見えるラストでワタシやアナタに返ってくるイヤさがねえ... 初出年代からすると、この路線のマーティンは進化してるのかも。キングの『痩せゆく男』なんかのイヤさをも連想させます。

「成立しないヴァリエーション」は、救いがあって良くデキてて、チェス小説/SF小説としてのスリルもあって、この巻以外のどこに出しても恥ずかしくない良い短篇になってますが... やはりその強力なリーダビリティのもとになってるのは妄執パワーの怖さ、なのですねえ。



で、最後に総論いっとくと、フィクションの材料として片付けてしまうにはあまりにリアルで「あるある」な、これでもかこれでもかって感じの悪行抉り出し描写がジョージ・R・R・マーティンのホラー短篇作家としての最大の持ち味にしてウリ、と言っちゃっても過言ではないと思う。そのへんマーティン自身も自覚と自負があるようで、その志しはその発言に過不足なく表れてる気がする ―

優れたホラー小説は、歪んだ暗い鏡に映ったわれわれ自身の姿を見せてくれる。その鏡の中に、われわれは不安を誘うもの、本当は見たくないものを垣間見る。ホラーは、人間の魂の影、われわれみんなの心の奥に棲みついている恐怖と怒りを覗き込むのだ。
 ― 編訳者あとがきより 宮脇孝雄訳

キングやキャロルやマレルが言ってても別に不思議はない発言だが、この短篇集のマーティンが言ってこそさすがと思わせる発言だ。SFもホラーもファンタジーもまぜこぜ&自由自在の器用貧乏作家なんて読みたかねーよ!と敬遠してる人もいるだろうけど(ってオレじゃん!)、主人公=被害者に感情移入して同化してると思いがけなく告発の指が実はこっちにも向いててギクリ、ってな感じのイヤ~な味わいを楽しめる海千山千スレっからしのホラー好きならぜひお見逃しなく!









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