「空襲」ジョン・ヴァーリイ — 美しい短篇を 限りない歓びを あなたに#1

殊にSFとホラーにおいて、驚異的な作家はまずその短篇で知れる。昨今「八世界」シリーズの再編集版でやにわにリヴァイヴァル・ブームとなっているジョン・ヴァーリイなんかはその好例中の好例だろう。ウィリアム・ギブスンに先立つ前史的/プロト的サイバーパンクとしてのヴァーリイの短篇の鋭さと新しさとさりげない巧みさは、創元SF文庫の『汝、コンピューターの夢』『さようなら、ロビンソン・クルーソー』で初めて触れたという人々にも十分伝わったことだろう。



私が初めてヴァーリイに触れたのは、たしか創元推理文庫のフレデリック・ポール編のアンソロジー『ギャラクシー』下巻に収録の「汝、コンピューターの夢」でで、「これはすごいヤツ!」という興奮からの渉猟で行き当たる当時翻訳刊行されたばかりだった第2短篇集『バービーはなぜ殺される』でさらにK.O.され、遡ってわざわざハヤカワの『残像』をも取り寄せてまで買ったのだった。正味な話、私は、『バービー』のバッハ・シリーズ「バガテル」で始まりデビュー作「ピクニック・オン・ニアサイド」で閉める、短篇集としての驚異的クオリティに舌を巻いていたので、『残像』収録の「八世界」シリーズ作にはそれほど心を躍らされはしなかった。



対して、私の心を激しく揺さぶり不思議な感動で泣かせまでしたのは、シリーズ外作品「空襲」だった。一見ひょいっとさらっと浮かぶがままに書かれたアイディア1発型の、よくあるSF短篇に思えなくもないこの「空襲」は、クールでシャープでスマートなサイバーパンクの年上のいとこ:ジョン・ヴァーリイに、熱くシリアスなヘヴィ・ヒューマニズムの血がしっかり流れていることを軽々と知らしめてくれる見逃されがちな名作だ。けたたましく電撃的な、読む者をもろともにパニッキングな極限状況に引きずりこむイントロ。恐ろしくシヴィアでオフビートでピカレスクな「ヒーロー」たちの軽口まじり鼻歌まじりの「襲撃」。後にギブスンやスターリングやウォマックやイーガンもその異化効果の強力さが賞讃の捨て置けない一部となるモダンな暴力的描写が凄まじい緊迫感で読む者の頭と心を鷲掴みにする。が、この空襲の真の意味が立ち現れるエンディングに至る頃には、われわれはその痛ましくも雄々しく気高く健気なヒーローたちの、驚くべき愛を知り涙するのだ。その畏怖にも似たざわめく感動は、コードウェイナー・スミスやティプトリーの数篇のもたらすそれにも似て、そして私には殊に、ギブスンの「辺境」を想い起こさせる。



この短篇を愛するがあまり、その長編版及び映画版『ミレニアム』を読んだり観たりしようという人は必ず現れようから、早々と警告しておきたい — けっしてそうする必要はないし、むしろそれは有害ですらあろう、と。美しく力強い短篇は、その短さゆえにこれをもっともっとの食欲を読者に、そして時には作者にももたらすかもしれないが、深追いが功を奏すことは滅多にない。たとえばジョナサン・キャロルの驚異の短篇「フィドルヘッド氏」を長編にして何か得することがあろうか?ワン・アンド・オンリーの短篇は、既にそれだけで変え難い独自世界を築いているものなのだ。









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