『輝く断片』シオドア・スタージョン ー チョウザメのレシピ

スタージョンの短篇集を楽しむのはいまいち難しい、とは意外とよく聞く言葉である。だが、その言葉は以下のいくつかのように言い換えが可能であり、またその必要もある。
A)日本におけるスタージョンの翻訳/理解/受容が近年までまちまちだったため、当り率の高い短篇集を選ぶのがそもそも難しい。
B)スタージョンの短篇のアイディア/メソッド/ジャンルとその順列組み合わせはあまりにも多岐にわたり、よってすべてのスタージョン色が好きだという読者がいない以上、いずれの短篇集も誰もがフルに楽しめるというものにはなり得ない。
C)その駄作さえ読むに足る、というかエンディングを迎えるまでできが判断できない作品、また、駄作と判明しても捨ておくには惜しいトピックを備えている作品、が多いため、編者はどうしてもそういう作品をも入れずにはいられない。
D)スタージョンの何タイプもある傑作のひとつひとつ及びひとパターンひとパターンが何タイプもの熱狂的スタージョン・ファンを生みだしており、その誰もが “自分のタイプ” のスタージョン作品を求める結果、どの短篇集も不満の残る何篇かを含まざるを得ない。
単なる列挙のつもりがいつのまにか論述に進んでおり、またそれがいくらでも続けられそうなのでこの辺で軽い総括に移り、作品の個別の紹介へと急ごう。



この『輝く断片』収録作の多くがミステリ寄りと言えば言えるが、ホラー/SF寄りの読者にもむしろ積極的におすすめできる集となっている。ジャンルの約束事を無視し手玉/逆手にとり、驚くべきかつ洗練された叙述スタイルで読者の胸ぐらをいきなり鷲掴みにする、各種の傑作でおなじみのスタージョンの手腕が、手を替え品を替え贅沢に大盤振舞いされているからだ。

「取り替え子」
愛すべき小品。“奇妙な味” の “異色作家” たちがよく使うモダンでクールでチャーミングな魔物が出てくるが、スウィートでハッピーな方向にひねりを効かすのは珍しいかも。

「ミドリザルとの情事」
軽い艶笑譚ながら瞠目すべきトピック満載。「たとえ世界を失っても」「男たちの知らない女」などに通底するあの問題意識を'57年にこんな小品に惜しげもなく、ってどんだけゼータクやねん!“作家のための作家” たる所以はこういうところにもあるのだろう。

「旅する巌」
失敗作でもここまで読ませる!というか、傑作になるまで何度も同ネタにチャレンジするのがスタージョン。その設定何度使うねん、って思っても面白いんだから許せてしまう。作家とエージェントの話として読めばまったく失敗作でもない、か。

「君微笑めば」
悪の観察者としてもスタージョンは一流だ。その告発の指からはヴュー・ポイント・キャラクターも読者でさえも逃れられない、という点でジョナサン・キャロルの先駆ともいえる。おかしなネタ短篇を読まされたように思っても “何だ、このオチは” で済まされないのがスタージョン。読むべき点はそこにはないのだ。

「ニュースの時間です」
実におかしな半傑作/半駄作。“奇妙&異色” の作家たち風の皮肉な現代寓話が展開されると思いきや、元のキャラやプロットはどこへやら、話の基調も二転三転、後味悪〜く急転直下エンディング。ところがこれ、後ろから解析すればなるほど、なのだ。でもやっぱり首をひねらざるを得ない感触ばかり残る ー 自分はいったいこの短篇が面白いんだろうか、実際ハラハラドキドキ面白く読み進んだんだけど、 ってな感じか。ほめることもけなすこともできるけど、みたいな。

「マエストロを殺せ」
他に言いようがないし、また、それがピッタリなんで、使うべき冠はずばり “ジャズ小説”。わざわざ頑張ってミステリとして評価しようとての苦心惨憺は不要。ヘントフとか「追い求める男」とかジャズマンの伝記とかそういうものと同様に楽しめばよろし。スタージョンの得意技のひとつ。芸術・芸術家論としてのフィクションと見ても既に優れている。関係はないが、デイヴィッド・マレルの「苦悩のオレンジ、狂気のブルー」にも似た独特のスリルと興奮を喚起させる。

「ルウェリンの犯罪」
出た!というか、多かれ少なかれもう既に何度も出てるんだけれども。何がってこういうキャラのこと。その作品のジャンルがSFだろうがホラーだろうがミステリだろうが、スタージョンのモティヴェイションは「そのキャラクターの物語」を書くことにある、と3分の2くらいは言っていいだろう。で、重要なのは、主成分が優しさでできているような作家/作品を最初っからそれ目当てで読んで泣いてるような一部読書子の評判を信じての喰わず嫌いだったらものすごく損するからやめましょう、ってことだ。

「輝く断片」
この集がジャンル的にはミステリ寄りの短篇多めで編まれているのが、この最後の傑作短篇に向けての引っ張りティージング&ジャンプ台であったとしても不思議ではない。スタージョン作品の中でも屈指の、とてつもなくスゴい、息もつかせぬ文章術の粋が初っ端からフル・スロットルですべての小説読みの心と頭を鷲掴みにするはずだ。おっそろしく悲しくおっそろしく残酷な人間真実への洞察と分析が、どういうわけかおっそろしく泣かす、とんでもない傑作を産んでいる。これを読んだ後、その人がそれまでのように自分の善性を無邪気に信じていられるとは思えないが、その苦しいくらいの煩悶と泣きと決意や覚悟こそが、スタージョンが読者に届けてくる決定的な烙印となるのだろう。





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