「四階共同便所の怨霊」オースン・スコット・カード — ノヴェレットの魔術師#2

観てこそいないしこの先観ることもなかろうが、おおかたハリウッダイズされてズタボロになっていることが予測される映画『エンダーのゲーム』で昨今一躍有名になったオースン・スコット・カードは、SF読みの間でもSF作家・編集者・批評家の間でも毀誉褒貶の分かれる、褒めづらいSF作家である。以前のブログで私は、2008年ごろにその『エンダーのゲーム』を採りあげたことがあったのだが、映画化の件もカードの以降の多シリーズ作展開の件もあって、その旧エントリをそのままここに再録するのを妥当なことと思えなくなった。どうせ&せっかくなので、カード作品のレヴューを展開していくにあたり方針を一新することにして、手始めのアペリティフとしてこの短篇紹介用「ノヴェレットの魔術師」シリーズを活用してみる。



短篇集『無伴奏ソナタ』は、長編『エンダーのゲーム』の前身となる同題の短篇を含み、往々にしてグロテスクなまでの結構を使ってモラルというテーマを激しく様々にスペキュレートする、カードのSF作家、もしくは作家としてのコアがショウ・ケース的に表された魅力的な短篇集だ。そこにはイーガンやギブスンやヴァーリイのようなモダンなテクノロジー観や描写や現代アクチュアルな問題意識は見つけられないかもしれないが、逆照射用の鏡像として作品世界を使うというSFの常なる魂は遺憾なく発揮されているのであり、古臭いサイエンス・ファンタジーもどきとして一概に片付けられる類いのものではない。



と、そんなことはまたいつか『無伴奏ソナタ』自体を語る際に取っておいて、ここでは素早く「四階共同便所の怨霊」を語りに入ろう。



他の収録作と似ても似つかず打って変わって、「四階共同便所の怨霊」は超ド級にストレートに怖い、息もつかせぬ、そしていつまでもイヤ〜な後味の残るホラー/ダーク・ファンタジーだ。「怨霊」「悪夢」と邦題ではぼやかしてあるが、実は復讐の女神たちの名である「エウメニデス」が原題にあるとおり、そのモンスターは主人公を責め苛む何者かであり、だが読み終わっても読者のわれわれは何らの「教訓」も得るべくもなく、ただただゾッとさせられる快感と犯してもいない罪をなじられるような理不尽な後口だけを反芻することになる。篤信的なモルモン教徒であり、その倫理観と思考実験がSF作品にも強く反映されるカードだが、その悪徳への顕微鏡的観察眼は現代人的に鋭く、それが容赦なく意義もなく純粋に戦慄のみに貢献・結実した例としてこのホラー短篇の価値がある。そのハラハラとモヤモヤは、その道ではおなじみジョナサン・キャロルとジョージ・R・R・マーティンに似て、なおかつその瞬間最大スピードは最良の時のスティーヴン・キングに比肩する。



ホラー読みは気難し屋のグルメでもあり、テーマが良くてもプロットが、モチーフが良くても描写が、と膨大なホラーを読み漁っては、これもこれもこれもまた凡百とたくさんの作家と短篇を読み捨てていくものである。ほとんどホラーを書くこともなく、そのくせグロテスクの何たるかをよく知る作家カードの、おそらくは気まぐれか激情かで一気に書き上がったであろうこの異色短篇は、その強度とスピードの高さのみでしつこく私のオール・タイム・ベストにへばりつき続けている。


 





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