『血も心も』エレン・ダトロウ編 — 編者の恒心


アンソロジーを読む愉しみのコアは、自分がそれまで知らなかった作家とのファースト・コンタクトにある。私自身にとっての例を挙げてみるなら、ジョン・ヴァーリイ、ホイットリー・ストリーバー、W・F・ハーヴィー、デイヴィッド・マレル、アイザック・B・シンガーなどの作家は、どこかでちらりと名前だけは見かけたことがあったとしても、アンソロジーでの幸運な出逢いなくしては手を出すのがずっと遅れるか出逢わず終いになってしまったであろう例だ。



かつてはサイバーパンクの裏立役者とも言うべき『オムニ』誌編集者であったエレン・ダトロウは、ヴィジョンある精力的な編集者・アンソロジストで、カービー・マッコーリーの後を継ぐような、SF/ホラー/ファンタジーからスリップストリームにまで及ぶ越境的なアンソロジーを編む人だ。このヴァンパイア・テーマ・アンソロジー『血も心も』でも、いささかハイブラウ狙いが過ぎて鼻につかなくもない幾篇かを持ちつつも、その嗅覚と目利きと人脈が光っている。



スティーヴン・キングの名高い『呪われた町』以来、元々ヴァンパイアものには目がない私だったが、さりとて古今の、そして旧態依然とした吸血鬼物語をひたすら集めただけのアンソロジーだったら、それほど心を動かされることはない。ここでは、私が「収穫」とみなした数篇を採りあげ、以て『魔猫』以降翻訳刊行がどういうわけか途絶えているらしきダトロウ編著への応援としておこう。



ダン・シモンズの「死は快楽」は、エントリ31で採りあげた長編『殺戮のチェスゲーム』の前身で、まさにアルバム1曲め、ってなパワー・ポップ。詳解はそちらのエントリで済ませてあるが、もしこの短篇での出逢い直しがなかったら、シモンズの名は私のリストに入ってくることはなかったろう。短くもきっちりタスクを表し果せた、独立した短篇として楽しめるモダンなアプローチのヴァンパイア・ヴァリエーション。

ハーラン・エリスンの「鈍刀で殺れ」は、短篇集『世界の中心で愛を叫んだけもの』に「鈍いナイフで」の別タイトルで収録のある作品。私はそちらで既読だったが、初めての人にはなかなかのエリスン入門篇となるであろう、実に「らしい」好品。

レオニード・N・アンドレイエフの「ラザロ」は、意表を突く搦め手にして見っけもの。ロシア文学から1900年の作品を引っ張ってきて、見事な異化効果と幅の拡げ方。虚無の深淵の恐怖が意図せずとも生者の精神を蝕む、「積極的」な吸血鬼たちの話とはかけ離れた異色傑作。ボルヘスも叢書 "バベルの図書館" 中の『ロシア短篇集』に収録している。

ハーヴィ・ジェイコブズの「乾杯!」は、こういうアンソロジーには必ず1篇は欲しいシャレの効いた鮮やかな好篇。貴族然とした独善性と選民意識は吸血鬼トラッドの意外と必須な要件だったりもするのだ。

ニューロティックでチャレンジングな作風で一部の数寄者には知られるエド/エドワード・ブライアントの「夜はいい子に」は、いつになくニートにキメた好篇。よくあるタイプの、ツイストの効いた小品と言えばそれまでながら、ブライアントの持ち味が珍しく温かく微笑ましい方向に表れていて、ファンにはなぜかしらホロリとくる貴重品。

ガードナー・ドゾワ&ジャック・ダンの「死者にまぎれて」は、この集中でも随一の危険なヴィジョンの意欲作。アンソロジスト・チームとしての活躍のほうが目立つ2人の作家に天啓のようにもしくは必然として訪れた衝撃的アイディアが、尻すぼみに終わることなく暗く苦くもある意味泣かせる重厚な短篇としてしっかり結実している。モチーフとしてはF・ポール・ウィルソンの『ザ・キープ』を反転させた感じ、とその途の人へのルアリングも放っておこう。





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